
動画D
催眠鎮痛とはなにか
水谷 みゆき
(愛知医科大学 疼痛医学講座/愛知科大学病院 疼痛緩和外科・いたみセンター)
臨床心理士
催眠鎮痛ということばはあまり知られていないかもしれませんが、鎮痛薬や麻酔薬が開発される以前には、唯一安全な痛みの治療法として使われていました。現代でも、催眠鎮痛は救急医療や副作用のために薬物が使えない状況において活用されています。必要性があれば鎮痛を生じる‘鎮痛反応’、過去経験にも培われた‘鎮痛能力’が人間の脳にはあるのです。“痛みを無いと思わせる”とか、“痛みを忘れさせる”とかいうことではありません。
一方で、人間の脳は最初に痛みを生じる原因となった傷や疾患が治癒した後も痛みを維持してしまうことがあります。最近認められるようになった痛覚変調性疼痛はそのような痛みにあたります。そうした痛みは薬物療法や外科的治療に対する反応性が低いため、心理療法を適用する必要性が理解されていますが、催眠鎮痛の適用は遅れています。遅れているのは日本の社会で臨床催眠の正しい理解が広がっていないことと、痛み治療の中で臨床催眠を実践する医療者の数がまだ十分ではないからです。
この動画は、催眠鎮痛を通して、痛みと催眠を正しく検討し、難治な痛みの治療に催眠を活用することの意義を理解していただくために作成しています。今学会の1日目にある中級研修を受講予定の方の基礎知識としても役立てていただけます。
臨床催眠とは、治療目的に沿って方向付けられ焦点化した意識状態において生じる現象についての臨床科学と臨床実践です。先ほど、臨床催眠の正しい理解がされていない、と書きましたが、催眠ということば自体が、誤解されやすいのは残念なことです。歴史上、この現象は夢遊状態の人において初めて観察されたため、hypnosisという言葉が使われ、眠りを催すという日本語に訳されました。また催眠の様子を外側から見たひとから、「暗示を語りかけられた人が眠らされ、操られている」と誤解されることもあります。
実際の臨床医学催眠では、本人の意識は覚醒しており自らが選択して意識集中して経験するプロセスであり、主体性は保たれています。催眠鎮痛は受け身的な経験ではなく、倫理的で、本人の経験に基づく科学的催眠です。
ですから、催眠鎮痛も”治療者が一方的に痛みをとる“ということではありません。本人が鎮痛のニーズをもっていて、この方法を選択するということがまず最初の入り口となります。催眠セッションにおいて鎮痛を経験することが、自己催眠の習得につながり、さらに催眠鎮痛を反復することで本人の鎮痛反応の回復を促します。動画では、こうした現代の催眠による鎮痛についてお話します。