
心療内科医からみた日常診療に役立つ
催眠コミュニケーション
動画A
関西医科大学心療内科学講座 水野泰行
催眠とは主に言語的および非言語的コミュニケーションを通して、被催眠者を催眠状態にいざなうものである。そして催眠状態とは意識が特に内面に集中して、外的な物事に対する周辺意識が低下した状態である。この集中力を増した内的意識に向けて、症状や問題の解決に役立つ暗示を提供して、被催眠者自身が望む変化を引き起こすのが催眠療法である。しばしば誤解されるが、暗示とは人を思い通りに操る魔法の呪文ではない。あくまでも被催眠者が望む変化に向けて、そこに至る道筋を丁寧に案内するガイドなのである。
本学会は日本”臨床”催眠学会であり、催眠の臨床応用を広めることを目的の一つとしている。しかし技術的な面だけでなく、場所や時間や金銭などの背景条件からも、本格的に催眠を実践できる環境にある人はむしろ少ないだろう。それにも関わらず催眠を学ぶことは、単なる嗜好や知識欲を満たすだけのことだろうか。私はそうは思わない。催眠を学ぶということはコミュニケーションを学ぶということである。催眠は定型的な暗示の言葉を一方通行で語りかけるだけでは、うまくいかない。相手の催眠や治療に対するモチベーションを高め、反応をよく観察して、体験をリアルタイムで共有し、ニーズを読み取り、それに沿った道筋を提供することが必要である。そのためには言葉のきめ細やかなニュアンスに敏感であることが求められる。そしてこれらはすべて、催眠を使わない臨床でも必要な能力である。つまり催眠のトレーニングは必然的に日常臨床のトレーニングでもある。私がこれまで指導した治療者からも、「催眠を学んでから患者の反応によく気づくようになった」「患者の気持ちが理解できるようになった」「言葉に敏感になった」といった感想をもらっている。この講義では、そういった催眠で用いるコミュニケーションを解説したい。
もちろん研修会では催眠誘導ができるようになってもらいたいし、その先には催眠を用いた治療も実践してもらいたい。しかし実践の場がないからという理由で催眠を学ぶのを諦めるのは、あまりにもったいない。催眠がコミュニケーションであるという観点を持って修練を積めば、きっと臨床家としての実力向上につながるだろう。